農民連
米価の回復と安定図るため
200万トン規模の政府米買入れを
米価下落 泣かされるのは農家・米卸・米屋
新米が店先に並ぶ季節になりました。「5キロ1980円」「10キロ2980円」など、低価格の米が大手スーパーの特売チラシにも並んでいます。しかしこれらは、事情の分かる人に言わせれば、“どれだけ農家や中間の業者を泣かせたか分からない”という価格。国民の主食である米は、安ければ安いほどよいというものではありません。国民的な合意で、米価を安定させる仕組みづくりが求められます。
政府 輸入米で200億円ものムダ遣い
買いたたかれて適正価格下回る
試しに、〇五年産米の生産費(六十キロ一万六千七百五十円)をもとに、流通
経費(農協手数料、米卸・小売店のマージン)を加えて計算した、米の「適正小売価格」は十キロで約五千円。もちろん産地や銘柄によって違いはありますが、少なくともこれを大幅に下回る価格は買いたたきによる「不適正価格」といえます。
買いたたきの最大の被害者は農家。八月末に終了した〇五年産米入札の平均価格は一万五千百二十八円で、生産費を千六百円も下回りました。農家手取りはここからさらに農協手数料などが引かれ、農家は米一俵(60キロ)に千円札を四〜五枚も張って出荷しているようなもの。こうした米の生産費を下回る市場価格は九七年以降、大不作で暴騰した二〇〇三年を除いて一貫した傾向になっています。(図)
また、大手スーパーに厳しい納入価格を強いられる米卸や、安売り競争に巻き込まれている米屋も被害者。大手といわれる米卸でさえ「政府によるある程度の規制は必要。そうでないと公正な競争はできない」と嘆くほど、今の流通は無法化し、大手による価格破壊と買いたたきが横行しています。
流通に関わる規制なくした政府
こうした現実は、米の需給や価格の安定に対する政府の責任放棄が招いたもの。政府は、食糧法を改悪して米流通に関わる規制をとりはらい、大企業の米流通支配を野放しにしています。また、わずかばかりの「備蓄」は、需給や価格の安定をはかるどころか、その正反対の役割を果たしています。
政府が現在とっている「備蓄ルール」は、(1)備蓄量は百万トンを超えないよう運営し、(2)古米にして安く市場に放出し、売れた分だけ買い入れる、(3)買い入れは、入札で安い方から買う―というもの。しかしこれで備蓄の目的である不測の事態に備えることができるのでしょうか。
第一に、百万トンというのは国民消費量のわずか四十三日分でしかありません。そして第二に、不測の事態に備えるうえでは何よりも国内生産を維持することが必要で、そのために備蓄制度も需給や価格を安定させることに役立つものでなければなりません。
米価維持は近代国家として当然
日本で米の政府買い入れが始まったのは米騒動がきっかけで制定された米穀法(一九二一年)から。出来秋に米を買い占めて高騰を待つ悪徳商法を抑えることが目的でした。その後、世界大恐慌下の農産物価格の大暴落のなかで、三三年には「生産費、家計費、物価その他の経済事情を参酌して決定する最高・最低米価の範囲内に米価を維持するため、政府による無制限の米買上・売却実施を規定した」米穀統制法が制定され、「これにより米価維持機能は格段に強化された」のでした(『日本農業100年のあゆみ』)。
また、アジアの国々も米価維持のため、米の買い上げを積極的に行っています。例えば、二〇〇一年から米市場介入計画をスタートさせたタイでは、収穫期の価格暴落を避ける目的で、出来秋に限定して市場価格を上回る価格で、政府が米を買い上げています。
これらから言えることは、米価の季節変動を抑えて価格を安定させるために政府が米を買い入れることは、近代国家として当然だということ。そして、それをやめた今の日本では、秋に下落した米価が、大量に在庫を抱える輸入米(ミニマム・アクセス米)や政府米の放出の影響などで一年中回復できないのです。
利潤追求の資本と逆の政策こそ
米が不足している時には買い占めて、過剰の時には買いたたくのが、利潤を追求する資本の動向。だからこそ政府がとるべき施策はその逆であるはず。つまり、米価が暴落している時には買い支えて需給を調整し、高騰している時に放出することです。
ところが今、政府は、米価が暴落しているにもかかわらず、さらに安い価格で政府古米を売りあびせて米価の足を引っ張り、大手流通資本の価格破壊や買いたたきに手を貸しているのです。
政府米の「備蓄ルール」改め要求
私たち農民連は、主食である米を国民に安定的に供給し、米価の回復と安定をはかるために、政府米の「備蓄ルール」を以下のように改めることを要求します。
(1)国民消費量の三カ月分にあたる二百万トン以上の政府米を常時、保有すること。
(2)政府米の買い入れは米生産費を基準にして行うこと。
(3)米価の下落時には政府米の売り渡しは行わず、高騰時にのみ、買い入れ価格を基準にして売り渡すこと。
(4)用済みとなった備蓄米は加工用米など、主食用以外に用いること。
さらに、国内で四割もの減反を押し付けながら進めるミニマム・アクセス米の輸入をやめるべきです。輸入米の在庫は二百三万トンにも達し、保管経費に年間二百億円もの税金が無駄遣いされています。これをやめることは国産米備蓄の財源を確保するうえでも重要です。直ちに輸入米の削減・廃止を輸出国と交渉し、WTOの場でもミニマム・アクセス制度の廃止をきっぱり要求することを政府に強く求めます。
(新聞「農民」2006.10.30付)
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