小林節夫 著
「農への銀河鉄道―いま地人・宮沢賢治を」
読んで
三上 満さん
賢治とともに地人の心ひびかせ合う熱情の著
小林節夫さんは、戦後日本の再出発のなかで、みずからの生きる座標軸を“農”と定めて生き抜いてきた、まさに現代の地人です。みずから大地を耕し牛を飼い、農業つぶしの悪政に「怒りの炎」を燃やしつつ、農を守る農民運動の先頭に立ってきました。その「節ちゃん」の心の中に、常に支えとしてあったのが宮沢賢治でした。富裕な商家に生まれながら、窮乏をくり返す東北・岩手の農村の中で、みずから「ほんとうの百姓」になろうとし、農村に飛び込んでいった賢治に、小林さんは自分自身の生きざまを重ね合わせていったのでしょう。
雑草だって畔を強くする働きをする
ヒデリやサムサの夏をくり返す東北の農村。その中で、みずから修めた科学を生産の向上に役立てようとし、無数の肥料設計や稲作相談に応じ、さらに農村に文化や芸術を根づかせ、地人たちの共同が花ひらく村、“ポラーノの広場”をつくろうとした賢治。本書の中で、そうした賢治の献身の生涯が、小林さんという農民の口から心からじつに豊かに語られます。そして、未完に終わった賢治の志をひきつごうとする、現代の地人の心が熱くほとばしります。
たとえば賢治は、たくさんの童話の中で、ダメなもの、まるでなっていないように見えるものが、じつはかけがえのない値打ちを持っていることを書きましたが、そうした賢治童話にふれて、「それは…、人間をいくつかの指標だけで評価する学校や社会の人間評価のおろかさ、すぐには見えない可能性を見失わせ、それが伸びる方向を奪う危険への警告といえるでしょう」(本書七十七ページ)と書いています。これなどは、「雑草だって畔をつよくする働きをするのだ」と語る小林さんならではの“農の心”のほとばしる言葉です。
傍観者的な研究者へきびしい批判も
本書のもう一つの柱は、あの時代の制約の中で生き、苦悩し、それでも農民のために生きようとした賢治を、まるで傍観者のようにあれこれと「評価」しておとしめようとする一部の「研究者」への手きびしい批判が展開されていることです。あの激しい困難の中で、あえて挑もうとした賢治の羅須地人協会の活動などを、単に「挫折」と片づけるような浅薄な評者を、小林さんは許していません。そこには、みずから厳しい自然の中で土に挑む農民の意地さえ感じさせます。賢治とともに地人の心をひびかせ合う熱情の書です。
(本の泉社Tel03(5800)8494まで。定価1905円+税)
三上満(元全日本教職員組合委員長、自書「明日への銀河鉄道、わが心の宮沢賢治」で第十八回岩手日報文学賞「賢治賞」を受賞)
(新聞「農民」2006.10.16付)
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