大手業者 米 買いたたき
生産者価格下落につながる
東京の老舗の米卸
取引先に切られ廃業
関連/低米価を心配しながら“鎌入れ”
「十月末をもって米の卸業務を停止します」―。一九五〇年創業の老舗の米卸、東京城北食糧販売協同組合(東京都荒川区)は、八月に開いた臨時総会で卸業務停止を正式に決めました。五十六年続いた歴史が幕を閉じようとしています。
突然入札方式に切り替えられ…
廃業のきっかけは、全国のセブン―イレブンにおにぎりや弁当を供給する米飯加工業者「わらべや日洋」への納入停止。「セブン―イレブンのヒット商品を次々に生み出してきた商品開発力」「セブン―イレブンとお取引関係、即ち安定した顧客基盤」と自らのホームページで、大手コンビニ、セブン―イレブン(以下セブン)との強力な“結びつき”を誇示するわらべや日洋。同社は、セブン全店の約六五%の店舗に製品を納めています。
城北食糧は幹事会社として納入業者の主力をになっていました。そのわらべやが今年になって突然、幹事会社制を廃止し、オンラインによるオークションを実施することに。これはあらかじめわらべやが決めた金額を業者に競わせて、競り下げていく方式で業者にとっては、過酷な値下げ競争を強いるものです。
城北食糧もオークションに参加しましたが、激しい値下げ競争の末、落札できず、納入停止に追い込まれました。同卸は売り上げの七〇%以上をわらべやに依存していたため「このまま業務を続ければ毎月数千万円の赤字。早く業務を閉めて本社を含めた資産の売却で、組合員の出資金返済のめどをたてる」。臨時総会での経営者側の説明です。
米屋そっちのけ大手取引に走る
「卸は米屋の組合なのに、米屋そっちのけで大手との取引に走った。自分の店はそれ以来、城北から米をまったく買っていない。『セブンがこけたら危ない』とは誰もが思っていた。心配なのは、自分の出資金の行方というのが、米屋の本音だ。それにしてもわらべやのやり方はひどすぎる」。城北食糧と取引のあった米屋はこう明かします。
業界紙「商経アドバイス」は「セブンに限らず大手ユーザーへの納入は、過酷な値下げ競争が繰り返されている。利益度外視の展開は体力消耗に直結する。しかもオンライン入札で機械的に決定し、相対による交渉の余地もない商取引のあり方は、あまりにも横暴ではないか。改善への具体的な手立てが急務だ」と告発しています。
こうした大手業者の価格破壊や買いたたきは、農家にとっての、生産費を大きく割り込む低米価へとつながっています。
今年は春から初夏にかけての日照不足で、米の作柄は平年作は望めません。それでも安値を強いられている背景には、こうした米流通の実態とともに、政府の責任放棄と輸入の増加が見え隠れします。米価暴落の問題点を特集します。
卸業者は競争あおられ廃業に
東北大学助教授 冬木勝仁さん
スーパーなど大手量販店にとって、米は特売の手段、客寄せ的なものに使われています。さらに外食産業、コンビニ弁当など中食の分野では、米は他社との競争の中で低価格路線を押しつけられています。
卸業者は、競争をあおられ、うまく対応できた業者が巨大化し、逆に対応できなかった業者は、吸収または廃業に追い込まれています。こうして大手スーパーやコンビニエンス・ストアの卸への影響力が大きくなっています。城北食糧廃業の件では、セブン―イレブンが納入業者選定方式を替えただけで卸業者が振り回されています。
コンビニの場合、基本的に原料は全国共通。米はその中の一つのメニューになっており、卸は指示された通り、精米して渡すだけです。客が買いそうな価格設定で、そこから値段を決めていく。卸の方では、それに見合う仕入値のものを探さなければならない。とくに弁当の中身まで指定されると、結局は同じ物を納品することになり、単なる価格競争になってしまうのです。
またセブン―イレブンの場合、他のコンビニと違って、弁当の納入業者は、セブン―イレブン以外の他社への販売を認められていないといいます。こうして卸への支配力が強化されるのです。
福島・二本松
安達太良山のふもと、福島・二本松市の山間の田んぼは、深くこうべを垂れた稲穂が秋風にゆれています。抜けるような青空の下、あだたら産直センター理事長の橋本潤一さん(55)と佐藤済さん(53)が参加する吉倉ライスセンターは、今日(9月25日)が“鎌入れ”。十月末ころまで稲刈りは続きます。低米価が悩みの種ですが、黄金色の実りは自然と農家の顔をほころばせ、コンバインのエンジン音も軽やかに響きます。
(新聞「農民」2006.10.9付)
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