「農民」記事データベース20061002-750-08

日経調「農政改革」提言と
日本の農業・農民

駒沢大学名誉教授  石井 啓雄(いしい ひろお)


第4回「提言」の内容(2)
農政対象の徹底的な限定論

 「提言」が掲げる第二の課題は、いわゆる構造「改革」と農業経営にかかわる問題ですが、それとの関連で直接支払いと農業団体の問題にも触れています。

 経営規模は20〜30倍に

 いま農政は、経営安定対策等大綱に基づいて、品目横断的直接支払い施策をすでに開始していますが、その対象は、原則として個別農家で四ヘクタール(北海道十ヘクタール)以上、集落営農は二十ヘクタール以上で経理の一元化や法人化計画のあるものなどに厳しく限定するとしています。

 ヨーロッパでは、WTOの発足に伴い、価格政策を補うものとして、それまで条件不利地域と山岳地域に限られていた直接支払いを、平場にも広げ額もふやして一般化しました。

 そうした直接支払いを日本では十年以上も遅れて、しかも価格政策の否定ばかりでなく、機械的な選別によって構造「改革」にも結び付けて始めようというのです。

 しかし「提言」は、この選別でもなお満足せず、「要件を満たす経営が増えることが担い手政策の目的ではなく」、「現行規模を二十〜三十倍にすることが求められている」とまで言います。そして政府の品目横断的直接支払いについては、「短期に」また「規模が大きいほど厚く施すことが望まし」く、「単価を年々引き下げ」ることで、「構造改革が誘導される」とし、「真の直接支払いは、構造改革が実現したあとで導入すればいい」というのです。

 集落営農には否定的

 一方で、各地域の実情に応じて農民が土地と農業を守るために作りだしている集落営農に対しては、当面、一応は評価するような言葉を並べながらも、「より少ない担い手でより大きな生産を担うことが日本の農業改革の姿であ」り、「集落営農組織も大規模で効率的な単独の経営体となることが期待される」と述べるなど、本質的には否定的です。

 新規参入の問題については、「担い手となる新規参入を促し、構造改革を動態的に進める工夫が必要であろう」と述べていますが、「提言」全体の論調と議事録にみる論議からいえば、ここで主に想定しているのは株式会社の農地取得の解禁とその農業直営でしょう。

 そのほか、「提言」は農業団体の問題にも触れていますが、「基本計画」でその「再編整備の方向が明示されている」にもかかわらず、「ほとんど手付かずの状況にある」とし、農林行政組織を含めてとしつつ、農協、農業委員会等の農業団体をスリム化し、「提言」のいう「真の構造改革」に役立つ方向に再編整備せよ、と要求しています。

(つづく)

(新聞「農民」2006.10.2付)
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2006年10月

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