「農民」記事データベース20061002-750-01

日本・フィリピンEPA署名

農産物市場いっそう開放

熱帯果実の自由化は果実全体に影響

 小泉首相は九月九日、日本とフィリピンの自由貿易協定を含む経済連携協定(EPA)に署名しました。国会承認を経て発効する同協定の最大の特徴は、日本企業の進出、工業製品の売り込みの見返りに、農産物市場をいっそう開放すること。さらに看護師、介護士の受け入れなど労働市場も一部開放します。農民連の真嶋良孝国際部長に同協定の特徴や影響について聞きました。(本号では日本の農産物市場開放の影響について紹介し、工業分野や労働市場の開放については続報します)


 “輸入は仕方ない”は二重の誤りに

図1 熱帯果実の主な輸入先 日本がフィリピンから輸入する農産物で一番問題になるのは熱帯果実です。バナナ、パイン、マンゴーの輸入先は圧倒的にフィリピンです。(図1)

 バナナについては、小型バナナは協定発効から十年間で関税撤廃、普通バナナは一〇〜二〇%の関税削減。パインについては、小型パインに限定して無税枠を一年目千トンから徐々に増やして五年目には千八百トンにします。バナナやパイン以外の、マンゴーなどの熱帯果実をはじめ、アスパラガスやゴボウなどの野菜も関税を撤廃することになります。(表)

日本・フィリピン・EPAで市場開放する主な農林水産品

 私は、個々の品目の影響だけでなくトータルとしてどうなのかということが問題だと思います。熱帯果実は日本で採れないんだから輸入しても仕方がないという議論がありますが、これは二重の誤りです。

 沖縄の熱帯果実をつぶすことに

図2 急激に落ち込んだ果物の生産と自給率 第一に、バナナの輸入量は日本の温州ミカンの生産量に匹敵し、リンゴの全生産量を上回っています。果実の自給率はこの約四十年間で九〇%から三九%へ、急激に落ちています。(図2)

図3 輸入果実(生鮮・乾燥)の内訳 果物の輸入はもう飽和状態です。とくに熱帯果実は生鮮果実の輸入の三分の二を占めています(図3)。これ以上、FTA・EPAで輸入を促進する余裕はないのです。

 バナナは自由化に際して、ミカンやリンゴが出回る冬季は夏季よりも関税を高くする季節関税制度をとりました。これは、当時の政府がバナナの輸入が果物全体に影響を及ぼすということを認めていたということに他なりません。

図4 熱帯果実収穫量の推移 第二は、沖縄のバナナ生産は先細りになってしまいましたが、パインはまだ約一万トン生産されており、マンゴーは約二千トンで増加傾向にある今(図4)、これをFTA・EPAでつぶすようなことがあってはならないということです。

 戦後、米軍によって平場の美田を奪われて本島北部や離島に追われた沖縄の農民は、酸性土壌に合うパインを作り、ピーク時には十万トンの生産があって、ほとんどが加工用でした。しかしパインの自由化で加工の道が閉ざされ、生食用で生きのびるとともに、パインに替わってマンゴーの生産が増えたという歴史があります。こうした歴史性、地域性を見る必要があると同時に、今後、基地に依存した沖縄の経済の改善を考えると、亜熱帯気候をいかした農業の発展が不可欠だと思います。

フィリピンの“飢餓輸出”を促進

 さらに指摘したいのは、日本の農産物市場の開放がフィリピンの農業に及ぼす影響です。

 今度の日本・フィリピンEPAの特徴は、バナナ、パインにおける「小型」というくくりです。これは農水省が〇四年十一月に公表した「みどりのアジアEPA推進戦略」からスタートしたもので、当時、農水省の担当者は私たちに「フィリピンなどの小農に配慮し、小農が作る小型バナナ・パインに対する関税をより低くする。これは、断じてアグリビジネス奉仕ではない」と説明していました。

 しかし、小型バナナの関税が低くてもうかるとなれば、アグリビジネスが手を出さないはずはないのです。

 そもそもフィリピンの輸出用バナナの歴史は、日本がバナナを自由化した一九六二年に始まりました。自由化を契機にドール、デルモンテなどのアグリビジネスが進出し、フィリピン特有の巨大地主制と結びついて大規模なプランテーションを始めたのです。そして、主食である米やトウモロコシを作っていた土地を輸出用バナナの畑に変えたため、ミンダナオ島やネグロス島では飢餓が発生し、今も続いています。

 自給用バナナも奪う

 フィリピンのビア・カンペシーナ加盟組織は、「日本政府が小型バナナの関税をフィリピンの小農に有利なように引き下げるという話は、まったく欺まんだ。その小型バナナをドールなど多国籍企業が支配するだろう」と述べた後で、「日本は、自給用バナナまで奪い取るつもりなのか」とつけ加えました。東南アジアではバナナは単なる果物ではなく、主食の一部なのです。

 農水省が言う「小農への配慮」はまったく的外れなばかりか、フィリピンの農業をさらに輸出に駆り立て、飢餓をいっそう深刻にする恐れさえあります。

 野菜については、関税はもともと低いのだから撤廃しても大した影響はないと言われています。しかし例えばドールは、頭打ちになってきた日本向けバナナの畑を、アスパラやゴボウに転換し始めています。

 フィリピンは、日本に近く、亜熱帯の国で、三千メートル級の山もあって温帯の作物もできます。関税をゼロにするという誘導策を示せば、アグリビジネスが乗らないはずはないでしょう。アジアは農産物しか売るものがないのだから、先進国はそれを受け入れなければならないという古い観念は通用しません。

 また、政府は米・麦を除外したことを“成果”だと誇っていますが、フィリピンの米自給率は九〇%以下、小麦は自給率ゼロです。もともと日本に輸出する余力がない産品を除外したにすぎず、これが「成果」などといえないことは明らかです。

(新聞「農民」2006.10.2付)
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2006年10月

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