品目横断対策、集落営農による
農家、農村の変化と対応〈下〉
日販連研究会での報告 堂前 貢
奥州市(旧水沢市など)にあるアグリS営農組合は、全国で一番はじめに特定農業団体の名乗りを上げたところですが、そのねらいは、「とにかくビジョンをつくって補助金をもらおう」というものです。設立にあたってのポイントは、(1)組合役員の意思統一(2)農地集積のクリア(3)税務申告に耐えうる会計一元化―で、「主なる従事者の所得目標」は千五百万円と一千万円ですが、品目横断対策の「担い手」には、「この状態ではなれない。かといって、これ以上進めば集落が壊れる。農家には土地神話があって財産管理の考えが強く、そこに踏み込むわけにはいかない」と話しています。
混乱や不協和音
また百ヘクタールを四十戸で組織するY営農組合は、六月に特定農業団体に認定されましたが、「成り行きに任せれば集落が崩壊するので、集落営農を立ち上げた」と言っています。「農業から離脱したいという人にいかにとどまってもらうかがカギ」だそうです。そして「品目横断対策の交付対象になるために、集落に混乱や不協和音が生まれては困る。地域農業を守ることが大事で、結果として交付金をもらえなくても構わない」と話しています。
北上市の鳥喰(とりばみ)集落は、県の「夢と希望・集落農業水田ビジョン実践フォーラム」で最優秀賞を受けた集落です。千五百俵の米は、大手レストランと契約し、有利に販売しています。転作の大豆も、大手豆腐業者との契約栽培です。二十歳代の農業後継者を専門オペレーターとして雇用し、水田十アール当たり四万円を還元しているそうです。しかし、組合長は「確かに品目横断対策の要件はクリアできるかもしれないが、法人化となると数十ヘクタールの農地でやっていけるのか、常用雇用者に給与を支払えるのか、不安が先に立つ」と話しています。
選択を迫られる
いま農家は、認定農業者になって「担い手」になるか、集落営農の中に入るか、農政の対象にならなくても農業を続けるのか、農地を「担い手」に貸して非農家になるのか、選択を迫られています。岩手の実情をみると、農村を守っていこうと立ち上げた集落営農はどこも、意欲と能力のある農家はすべて担い手という考えです。担い手の高齢化や働き手の不足から、助け合い的な集落営農はどうしても必要なわけです。そこにつけこんで、「補助金をもらわない手はない」と、行政やJAの担当者はよく言います。しかし、品目横断対策に乗るための要件をクリアするには、高いハードルを越えなければなりません。
品目横断対策で農家を選別し差別を持ち込むことは、農村に無用の混乱と軋轢(あつれき)を生むだけであり、農民や地域の意思を無視して強引に進めれば、失敗することは明らかです。
(おわり)
(新聞「農民」2006.8.28付)
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