作った物の命をずっとつないでいきたい自家採種に取り組む宮内●・福江夫婦 千葉・多古町土に適した生命力強い在来種中心に「F1(エフワン)=交雑一代品種」が普及し、農家もいまや買うことが多い作物の種子や苗。「種は命」と種採り(自家採種)に取り組む千葉県多古町の畑作農家、宮内●さん・福江さん夫婦を訪ねました。
おいしさ、安全野菜ボックスに「作った作物は私たちの子どもと同じ。本当にいとおしくて、この命をずっとつないでいきたい。種は生きているんです」――こう思いを語る宮内さん夫婦は、多品目少量栽培で、多古町旬の味産直センターの野菜ボックスを中心に出荷しています。自家採種はかき菜、かつお菜、大根、落花生、黒豆、インゲン、冬瓜など、今では「何種類してるか自分たちもわからない」と言うほど。種採りの始まりはセリホンという葉菜でした。中国に出征していた福江さんのお父さんが持ち帰ったもので、収穫期が長く、漬物にするとたいへんおいしい。宮内家では半世紀もの間、毎年栽培して種をつないできました。 このセリホンを野菜ボックスに入れたところ、じわじわとおいしさが評判になり、十年前ほど前、同産直センターでは生産者を七人に増やして栽培することに。ところが市販されている種を使用したところ、まったくの別物ができてしまいました。「誰もが知ってる大きな種子メーカーの種でもこんなことがある。農業の大もとの種がこんなことでいいのかと思った」と福江さん。以降、在来種を中心に徐々に種採りを広げてきました。 でも種採りは、雑種にならないよう近隣種から遠く離して栽培したり、種をとる乾燥度合いを見きわめるなど、手間も技術も必要です。●さんは「楽しんでやっているから苦労と思ったことないよ」と穏やかな笑顔で言いますが、野菜ボックスへのこまめな出荷もあって、宮内さん夫婦は三百六十五日、ほとんど休みなしだそうです。 在来種は「土に適しているから、病気もしないし、生命力がとても強い。うちはほとんど無農薬栽培なのでこれはとても大切なこと」と福江さん。「香りが違う」と絶賛される宮内さん自慢の黒ゴマやトウガラシは、一粒のこぼれ種が自然に育ち、毎年大切に作り続けているもの。「こぼれ種でも翌年にはちゃんと実りがある。種採りをしていると毎年、自然の力って本当にすばらしいって感動するんですよ。こういう力のある、安全でおいしい野菜を消費者に届けたい」と福江さんは熱っぽく話します。 二年前には東京の農家から生協を通じて、伝統野菜の「亀戸大根」を託されたことも。大根そのものが送られてきたため、畑に植えなおして育て、種を取り、去年はその種を育てて野菜ボックスに入れたそうです。「葉がとてもおいしい大根。これからもずっと守っていきたい」と●さん。
知恵・文化を次世代に伝承宮内さん夫婦は今年、集落の「おびしゃ」祭りの「はねこ」の当番になりました。五穀豊穣を祈願して毎年一月に開かれるこの祭りには、おもちや煮物の他に「はねこ」と呼ばれるポップコーンが供えられます。この「はねこ」、実は集落に何百年と作り伝えられてきた在来のトウモロコシで、毎年、当番に当たった三人が作り直して種を更新しているのです。「はねこ」の種採りはたくさんの言い伝えを守らなければなりません。種をまくのは七月以降(他のトウモロコシと交雑しないよう)、取れた種はハリにつるして保存(ネズミよけに)など、実は種採りの知恵がたくさん込められています。 「昔は農家なら皆、ナスでもカボチャでも苗床を作って種を取った。子どももサツマイモの苗を数えたりして手伝って、農作業の知恵と在来の種を受け継いだもの。それが農民の本来の姿ではないかなぁ」と●さん。「昔の人はどれだけ経験を積み重ねたことか。この農村の文化、知恵を次の世代に伝えていけたら…」と福江さんも同じ思いでいます。
●=さんずいに亘 (新聞「農民」2004.7.12付)
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[2004年7月]
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