広島県君田村
作って 楽し 売って 喜び
農産物直販所“おはよう市”
「作ったものが直接販売できる楽しみ、喜びがある」――広島県君田村(きみたそん)にある農産物直売所“おはよう市”の取り組みで、村のお年寄りや女性が元気になっています。都市住民との交流で農業振興に取り組む、村とおはよう市を取材しました。
(森吉 秀樹)
村のお年寄り、女性 生き生き
消費者と交流 作る意欲も増す
君田温泉の道の駅の一角
広島県の北部、三次市から北へ車で十五分。中国山地の豊かな自然に抱かれた君田村は、古くから山陰地方との交流点として栄え、農業、林業を中心とした村。耕地整理され、ゆるやかな傾斜に広がる田んぼを眺めながら県道39号を走ると、山あいに君田温泉「森の泉」を中心とした道の駅「ふぉレスト君田」が見えてきます。“おはよう市”はこの一角にあります。
おはよう市に野菜を出荷する谷口善之さん(87)は、八時の開店に合わせて野菜を収穫し、雨の日も、雪の日も、バイクの荷台に野菜を積んで通います。
「ものを育てることは生きがい。作ったものを販売できるおはよう市ができてこんなにうれしいことはない」と谷口さん。「里芋を買った人から『次はいつ出しますか』と電話がありました」と、お客さんとの交流を楽しそうに話します。
谷口さんをはじめ、農産物を出荷する生産者の多くが高齢者や女性。おはよう市の存在が、地域農業の活性化に大きく貢献しています。
新鮮さが好評市を目当てに
おはよう市を運営する「君田村農林産物生産販売協議会」は七年前の九七年二月、「村がつくる温泉施設で野菜を販売しよう」と生産者九十人が立ち上げました。四月から日曜朝のおはよう市に取り組み、十月の道の駅オープン後は、ほぼ毎日開店。これまでの取り組みについて、協議会会長の藤井巌さん(72)は、「これまで家庭菜園で作っていた旬のもの、有機栽培の安全な物を消費者に食べてもらおうと取り組んできた」と語ります。
二〇〇〇年には村の加工施設“森の食彩館”が完成したことで、村の農産物で女性たちが作った豆腐、味噌、餅、惣菜などが加わり、売り上げは六千万円を超えます。「新鮮な野菜と加工品が買える」と温泉のお客さんに好評で、おはよう市を目当てに訪れる人もいるほど。農家は家庭用だった野菜が販売できるとあって、会員は百七十五人と二倍に増えました。
「自分で値段を付け、売る場所ができたことで農家が喜びを感じ、ものを作る意欲が出てきた」と言うのは協議会事務局長の上坂敏章さん(58)。「減反が進むなか、米以外で農業所得を向上させようとおはよう市に取り組んだ」と当時を振り返ります。
地域農業の活性化に
会員も6年間で倍加
小さな生産を村独自に助成
村企画振興課長の古川充さんは、「高齢者や女性がいきいきしている。現金を得るだけでなく、社会参加の場になり、村の良さを見直すきっかけになっている」とその役割を強調します。
村は、おはよう市の建物を提供するだけでなく、野菜の少量多品目生産を促進しようと、パイプハウスに一棟七万五千円助成しています。一昨年、パイプハウスを新築した西川忠夫さん(83)は、「おいしい物を作れば食べてもらえる。街のショッピングセンターの野菜も参考にしながら作っている」と、セロリなどの新しい作物にも挑戦し、物づくりに意欲的です。
おはよう市で年間売り上げ第四位と人気の「こだわり豆腐」の大豆はすべて君田産。それだけに「おいしいと喜んで買ってくれる」と言うのは、大豆加工に取り組む丸田律子さん(70)。早朝の作業も「慣れているので平気。お客さんが待っていると思ったらがんばれる」と話します。
豆腐は、村の学校給食や家庭、保育所、役場、温泉施設、三次農協が広島市内に作ったアンテナショップ「JAきん彩館」などで販売。原料の大豆には、村がキロ百十円を助成することで、生産者の所得を確保し、豆腐の価格を抑える役割を果たしています。さらに、村は十アールの収量が二百キロ以上の分については四十円を加算し、大豆生産を促進。村内産の大豆は全量加工に使用しています。
村と生産者と普及所が協力
大豆だけではありません。転作田に植えられたヒマワリの観賞には、二万人が訪れます。ここでも村が十アール二万五千円を助成し、手入れしてきれいに咲かせると最
大十アール六千円を加算。種も村と「森の泉」が半額づつ助成しています。
広島県農民連の役員でもある上坂さんは、「ヒマワリだけでは十分な収入にならないが、後作でソバを植えれば所得を確保できる。村と生産者、普及所などが協力しながら取り組んできた」と話します。
おはよう市は、今年から、農家が販売状況を自宅で確認できるFAXを村の支援で導入することになっています。「これで終日、品切れせんようにできる」と期待する藤井さん。小さな村の直売所が、売上一億円を達成する日も近いかもしれません。
(新聞「農民」2004.1.19付)
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