日本の農民と大いに交流したい
メキシコでは「農業はもう我慢できない連合」作って
主食(トウモロコシ)守る運動やってます(1/2)
メキシコの農民運動指導者
スアレスさんに聞く(メキシコ国会議員)
《聞く人》農民連副会長 真嶋 良孝さん・農民連秋田県連委員長 佐藤長右衛門さん 「ANEC」は直訳すれば「全国農業取引業連合」。家族経営が生産したトウモロコシをはじめとする農産物を自分たちで加工・直販する生産者組織で、加工場・直売所建設に対する融資や経営指導を行う協同組合組織も持っています。日本では、産直協にあたる組織といっていいでしょう。
話し合ったのはANEC顧問で、昨年七月に国会議員(下院議員)になったビクトル・スアレス氏と、農民連の真嶋良孝副会長、佐藤長右衛門常任委員・秋田県連委員長。
「ANEC」は直訳すれば「全国農業取引業連合」。家族経営が生産したトウモロコシをはじめとする農産物を自分たちで加工・直販する生産者組織で、加工場・直売所建設に対する融資や経営指導を行う協同組合組織も持っています。日本では、産直協にあたる組織といっていいでしょう。
話し合ったのはANEC顧問で、昨年七月に国会議員(下院議員)になったビクトル・スアレス氏と、農民連の真嶋良孝副会長、佐藤長右衛門常任委員・秋田県連委員長。
日本の米とメキシコのトウモロコシ両方とも、国民の主食です。トウモロコシで作った「トルティーヤ」は、ホットケーキの半分から三分の一ぐらいの厚さ。冷めないように、ていねいに布でおおって出されるトルティーヤに肉や野菜をはさんで食べます。ホッカホカを毎食のように食べる日本の「ご飯」と同じです。
ところがWTOのもとで、メキシコの農民も主食を作る権利を奪われている。このことを教えてくれたのは、二〇〇二年六月、ローマで開かれた食糧主権NGOフォーラムでお会いしたビクトル・スアレス氏(ANEC委員長=当時)。昨年九月、メキシコ・カンクンで開かれたWTO閣僚会議で再会し、熱く交流しました。
主食を守る両国農民の共通のたたかいを交流し、地域自由貿易協定(FTA)にも及んだホットな交流の模様を新春にお届けします。
「メキシコには農業はいらない」かのような政策が…
アメリカからの輸入急増で離農続出
真嶋 ローマでお会いしたときに、メキシコの農村をぜひ見に来てくださいと言われて、やっと来ることができました。
スアレス ようこそ。まず、私からメキシコの農民のたたかいについてお話ししましょう。
メキシコの人口は一億人で、農村には二千五百万人が住み、農家は四百万です。メキシコは日本と同じように農業の歴史が長く、私たちの国の基礎はトウモロコシを中心にした農業です。
しかし政府は、二十年ぐらい前から、アメリカや世界銀行・国際通貨基金(IMF)などの圧力を受けて、メキシコよりも効率的で生産力の高いアメリカの農産物を輸入することが国民の利益になるんだと宣伝し、メキシコに農業はいらないかのような政策を取り続けてきました。
そして十年前に、農業分野も完全に自由化することを合意した「北米自由貿易協定」(NAFTA)がスタートしました。その結果、NAFTAの前はトウモロコシの価格は一トン七十五ドルでしたが、その後は三十五ドルにまで落ちました。
それに加えて輸入が急増しました。NAFTAの前の輸入は、干ばつ年には二百万トンぐらい、そうでない年は輸入ゼロでしたが、いまは六百万トンも輸入しています。
輸入業者がトウモロコシの収穫期にわざと大量に輸入して、価格を下げることまでやるなど、国内市場がまったく無秩序に荒らされています。
佐藤 うーん、それはひどい。
スアレス アメリカからカーギル社が入ってきて取引を支配し、巨大なトウモロコシ加工企業だけが繁栄している。
そして、この十年間に、政府は融資をカットし、農業予算も減らしました。
それで、メキシコの農民たちはやる気を失い、離農が続出しています。
首都で農民の要求を支持する10万人の大デモ
世論と連帯の力が政府を動かした
スアレス そういうなかで、農民の抵抗運動は昨(〇二)年末に最高潮に達しました。九月十二日に十二の農業団体が共同して「農業はもう我慢できない連合」をつくり、とくにNAFTAの農業条項を改定せよということでたちあがりました。
真嶋、佐藤 それはいい名前ですね。
スアレス そして十二月に国会に向けて大デモをやり、新たな市場開放が発効する元旦の午前零時から三日間、アメリカとの国境の橋を封鎖し、さらに一月六日から十五日には、メキシコ市の独立記念塔前で大規模なハンストをやりました。
農業を守ることは、メキシコを守ることです。労働組合や市民団体と共同で、一月三十一日には十万人の人々がデモをしました。農民や農民運動を支持するこういう規模のデモはかつてないものでした。こうして、国内世論の共感と連帯を獲得していったのです。
そして、政府は、ついに「農村のための国民合意をつくる」という名称の対話・交渉の場をもうけ、何回も交渉が行われて、四月二十八日に大統領と農民団体との間で合意が成立しました。その合意文書には大統領だけでなく主要な大臣や各州の知事も署名しました。
もちろん、合意では、われわれの要求がすべて通ったわけではありませんが、一つの前進だと思っています。合意の中身は、(1)輸入に依存するのではなく、農村をきちんと発展させる新しい政策をとる、(2)農業生産資材価格に対する補助などの緊急対策、(3)今後、アメリカとトウモロコシの輸入問題について交渉する――などです。
さらに、合意がきちんと実現されるかどうかを監視するために、政府側の代表と農民運動の代表で監視機関をつくって、実施状況を見張ることも合意しました。
佐藤 それはすごいですね。
(新聞「農民」2004.1.5付)
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