十数年の道のりへてすすむ国産小麦の品種改良
パンに適した小麦への品種改良も進められています。農林水産技術会議事務局の研究調査官、吉永優さんは言います。 「品種改良は非常に難しいんです。第一に十年、十数年という時間がかかる。また、その土地の気候にも合って、病気にも強く、農家が安心して作れるものというように、たくさんの条件が求められるからです」 そんなこともあって、新しい品種はまだ作付が非常に少なく、全国で四、五千トンにすぎません。 パン用に適した小麦として九州沖縄農業研究センターは、二〇〇〇年二月にニシノカオリを世に出しました。開発にたずさわった研究者の一人は「外国産に負けないというわけにはいかないが、それに近づいているとはいえます。ただ、外国産と同じパンを作る考えはさらさらありません。日本製のパンを作るのが目的だからです」と、いいパンができることを期待しています。ニシノカオリは関東以西での作付けが可能だといいます。 東北農業研究センターは、昨年からハルイブキを実用化し、パン用に適した東北214号が岩手、福島の奨励品種として採用されるところまできています。東北全県での栽培が可能です。 北海道には、すでにハルユタカがあります。それでも新しく春播きパン用の「はるひので」、「春よ恋」(ホクレン)が実用化されたのは、北海道農業研究センターによると「ハルユタカは耐病性が弱く、穂発芽しやすいので生産が不安定だから」だといいます。また、秋播きパン用にキタノカオリを開発中ですが、まだ試験段階です。
「種類によってはできないことはない」“好評”の国産小麦パン「私たちは国産小麦の『春よ恋』を使って、製パン試験をかなり行っています。ハルユタカの後継の品種で、今年の四月十七日、食品総合研究所の公開日には、六百食くらいのパンを出しました」こう語るのは、独立行政法人・食品総合研究所の食品素材部穀類利用研究室長、堀金彰さんです。見学にきたお客さんが、「次、いつ焼きあがりますか」といって待っているくらいで、非常に好評でした。 食品総合研究所は、製パン施設を持っています。だから「学校給食とか団体で試験を行ってみたいというのでしたら、ここで協力することも可能です」と堀金さん。 では、農林61号など、うどん用の粉でパンはできないのか。「パンの種類によっては、できないことはない」といいます。堀金さんたちは昨年、農林61号とよく似た性質のホクシンでパンを作ってみました。昨年の食糧庁の幕張メッセでの発表会でも、国産小麦で作ったパンが出品されています。「ただ、試験研究機関でそれができたからといって、すぐに会社でも販売できるかというと、国産小麦粉の安定供給などの問題がいろいろあるでしょう」と、堀金さんはつけ加えます。 同研究所の食品素材部長、今井徹さんは「パンの形をなぜ、アメリカやカナダの小麦で作るパンと同じにしなければならないのか、日本の小麦に合ったパンができればいいんじゃないでしょうか」と話していました。
(新聞「農民」2002.10.21付)
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[2002年10月]
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