「農民」記事データベース20020930-556-06

南アフリカの農村女性たち

農家の暖かさと交流

長野県北

 南アフリカの農村女性たちが九月九〜十日、農民連・食健連の案内で長野県北信地方を訪れ、りんご畑や水田で熱心に技術を学び、夜は農村の文化交流の二日間をすごしました。

(真嶋良孝)


作物や畑ともしっかり交流して

 訪れたのは、南アフリカ共和国北部・リンポポ州ティサネ村の農村ダンスグループ六人とコーディネーター。同国大使館のレベッカ・マンパーニ参事官兼領事ら大使館関係者も同行しました。

 ダンスグループは、ティサネ発展フォーラムのメンバーで、農村の農業生産・加工の発展や環境保護、工芸など、地域の経済・文化の発展のために活動しています。今回の訪問は「日本の農村からおおいに学んでもらい、その成果を地域の発展と女性の自立に役立ててほしい」という大使館の肝入りによるもの。

 作物を見、質問をする目の輝きがすごい

 一行を最初に迎えた峯村章一さん(ながの北信産直センター販売部長)のりんご園では、もぎたての「つがる」をほおばり「デリーシャス」(おいしい)を連発しながら、次々に質問が飛び出します。接ぎ木のやり方、水の与え方、さらに品種改良の歴史にまで及ぶ質問に懇切に答えながら、峯村さんは「作物を見、質問をするときの彼女たちの目の輝きがすごい」とつぶやきました。

 続いて案内された金井光正さん(同産直センター副会長)のぶどう園では「巨峰」の粒の大きさと甘さにびっくりした様子。ここでも、袋かけや雨水よけ、房の大きさを整える作業のやり方に質問が集中し、さながら畑での講習会。

 「南アフリカのぶどうは、このぶどう園で摘果しないで残っているものと同じくらいの大きさ。手をかけることによって商業ベースで出荷できるようになることに感心した。品種改良に何十年もかけている話はとても感動的だった」(最年少のマンパネさん=十八歳)

 予定を大幅に遅れ、薄暗くなってから到着した足立テイさん(長野県農民連民宿部会長)の水田でも“講習会”。

 南アフリカの主食は白トウモロコシ。出発の前日、大使公邸でごちそうになりましたが、固さといい、ほんのりした甘味といい、ご飯によく似ています。それだけに、稲には興味津々の様子で、稲の茎の太さを手で確かめ、田植えや刈り取りの時期、水のかけひきの仕方、発芽のさせ方などなど、熱心な質問が次々に。

 「南アフリカでは稲を作っておらず、インドから輸入している。稲を初めて見て、土から生えているのを確認した。日本の農民は知識が豊富なプロフェッショナルだ。これで終わりではなく、交流のスタートにしたい」(グループ最年長のマポディエさん)。マポディエさんはまた「傾斜をうまく利用して、りんご園にしていることが印象的。私たちは平坦部にしか目が向いていなかった」と感想を述べました。駆け足の視察のなか、英語が通じない彼女は不自由そうに見えましたが、鋭い観察をしていることに、私の方が驚きました。

 同行した大使館の角依奈美さんによると、グループは十日朝四時に起きて“会議”を開いたとのこと。情報交換と「学んだ栽培方法を必ず南アフリカに持ち帰って実践したい」(モディシャさん)という意志統一の場だったのでしょう。

 十日は朝から、吉越菊雄さんが経営する奥信濃ファームでキャベツと大根の有機栽培を視察。ここでも、有機肥料の成分や除草の仕方、種子の入手方法などなど、驚くほど実践的な質問攻め。

 その後「どうしても種を買って帰りたい」との強い希望で、飯山市内の種屋さんで、カボチャ、スイカ、枝豆、インゲン、ホウレン草、ダリアなどの種を仕入れ、おおいに満足した様子。

 案内した江口宗晴さん(飯水岳北農民組合副組合長)や峯村、金井、足立さんたちは「こうなったら、作物がどうなっているか、様子を見に南アフリカに行かなければならないな……」と話し合っていました。


日本の農家の暖かい歓迎に大感激

 九日夜は、もう一つの目的である文化交流。会場になった片山館のホールには、村の人たちが三十人も集まって熱気ムンムン。

 信濃平の青年たちが、十五日の奉納をめざして稽古大詰めの獅子舞を熱演したのに続いて、地域に伝わる「烏踊り」が披露されました。

 あとで歌詞の意味を聞いたのでしょうか、コーディネーターのオードリーさんは「リズムがいい。歌には歴史があり、伝えたいものがある。家族がベースになって歌があると思った」と感想を聞かせてくれました。

 いよいよダンスグループの出番。「コココマ・ジャパン」(こんにちは日本の人たち)という曲と、結婚式やパーティなどで三〜四人集まれば必ず歌い踊るという「幸せの歌」の二曲を披露してくれました。

 楽器は、日本の鼓よりも低音の太鼓とホイッスル、足首に巻いた超小型カスタネット様のものとシンプルです。「アフリカ」と聞いて連想するのと違い、かなりゆったりしたリズムに乗せた歌と踊り。声が一番すぐれた楽器です。

 最後は、烏踊りを披露してくれた村の人たちが「幸せの歌」の踊りに飛び込んで交流。

◇  ◇  ◇

 「女性が家にこもっていないで、自分たちの表現で社会に進出していくためにダンスグループを作った。他の文化に触れるとともに、私たち自身の文化を披露することは、私たちを強くする」「初めて飛行機に乗って遠い日本に来て、暖かい歓迎に大感激。長野の農村はティサネとよく似ている」「家と農地が近いこと、機械化が進んでいることは、女性にとってやりやすいと思った」――帰国を前に、彼女たちは口々にこんな感想を述べていました。

 遠い南アフリカから長野にやってきた彼女たちは、日本の農村の人たちの暖かさと交流し、作物や畑ともしっかり交流して帰国しました。

(新聞「農民」2002.9.30付)
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2002年9月

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