農家も小売りも元気に!!〔札幌市〕市場を生かした「地産地消」のとりくみ「さっぽろとれたてっこ・朝取りとれたて便」地元の新鮮な野菜を食卓に。札幌市は、市内の農産物を市民に届ける「地産地消」のとりくみを進めています。「さっぽろとれたてっこ・朝どりとれたて便」と名づけられたこの事業は、市場を中心に、農協と小売を含めた地域ぐるみのとりくみに発展しています。
「北の大地」に生まれた地産地消のとりくみ「地産地消」――。最近、よく使われるこの言葉は、残留農薬の検出が後を絶たない輸入農産物や大手食品メーカーによる偽装表示など、食べものに対する不安の広がりを反映しています。素性のわからない輸入農産物よりも、“作る人の顔が見える”地元の農産物を求める消費者が増えています。七月のさわやかな風が木立を抜けてそよぐ佐々木農園。札幌市の隣の石狩市にあるこの農園のハウスでは、トマトが木になったまま赤くほんのりと色づいています。「おいしいものを作って、一人でも多くの人に食べてもらいたい」と意気込みを語る後継者の佐々木雅彦さん(39)。まだ青いうちに収穫されるトマトではなく、こうした完熟トマトを食べられるのも、「地産地消」ならではのことです。 佐々木さんはこのトマトを、札幌市が昨年から始めた「朝どりとれたて便」に出荷しています。経営の主力は、メロンと「大浜みやこ」という特産のカボチャですが、佐々木農園では今年、トマトの作付を二倍に増やしました。 「朝どりとれたて便」は、市場を通じて朝収穫した野菜をその日の午後に小売店の店先に並べるシステム。参加農家はまだ三十戸ですが、価格は再生産を保障することを基本に決められ、若い後継者の営農意欲につながっています。品目は、ホウレン草、レタス、キュウリ、トマトなどの葉菜、果菜を中心に十七品目。参加する農家は、定められた生産基準にもとづいて作ることが条件で、市が負担して土壌診断と農薬検査も受けます。
朝どり新鮮野菜をその日のうちに「朝どりとれたて便」では、農家は畑で収穫したばかりの野菜を、専用の青い「通いコンテナ」に積めて朝のうちに農協の集荷センターまで運びます。それを市場(丸果札幌青果)の三台のトラックが集め、市場内で小売店ごとに仕分けた後、二十四店舗ある「朝どりとれたて便」の取扱店に届けます。午後三時頃には店先に並べられ、その日の晩の食卓にのぼるというわけです。「こだわりをもったお客さんが、私の店の商圏以外からもわざわざ買いに来てくれるんですよ」と話すのは、「朝どりとれたて便」を扱う瀬戸商店の社長、瀬戸松一さん(66)。魚屋、肉屋などのテナントが入った瀬戸さんのお店の一角に、黄色のノボリと生産者の顔写真とともに青色のコンテナに入ったみずみずしい朝どり野菜が並べられていました。
市が本気になって地域農業を守ろうと「急激に都市化が進む札幌の農業を守るには、どうしても百八十四万の市民に目を向けて、農家の経営の安定をはかっていく必要があったのです」と、この事業を担当する札幌市経済局の中田三喜男主査。市の主力産品のタマネギは近年の中国産の大量輸入で打撃を受け、道外への出荷が定着しているホウレン草も他産地との厳しい競争にさらされています。札幌市は五年前に市内産の農産物の表示制度を作り、学校給食への食材供給と合わせて、市民にPRする「さっぽろとれたてっこ」事業をスタート。参加する農家は年々増えて、取扱量、金額ともに伸びてきました。 それに昨年、新たに加わったのが、「朝どりとれたて便」です。市場に出入りする街の小さな小売店にも「さっぽろとれたてっこ」野菜を扱ってもらい、市場の活性化にもつなげようというのがねらい。それまで「さっぽろとれたてっこ」野菜は、量販店と農協の直接取引が主でした。 札幌市は「朝どりとれたて便」を始めるにあたって、配送研究会(座長=細川允史・酪農学園大学教授)を立ち上げて、市民を対象にアンケートを行いました。そこでわかったのは、「さっぽろとれたてっこ」の知名度がまだ五〇%にとどまっていること、しかし多くの消費者がその考え方に共感し、「近くで売っていれば買いたい」と思っていること。さらにお年寄りのなかで鮮度に対する要望が強いことなどがわかりました。
市場を中心に農家、小売りが新たな流通をつくるしかし「朝どりとれたて便」は、すべて納得ずくで始まったわけではありません。農家と小売店、市場関係者、それに消費者が加わって何度も研究会を重ねて、どうやったらお互いが両立できるか、相互の理解を深めながら運営してきました。二年目の今年も試行錯誤を続けています。その一つが、価格の問題です。昨年の市場の一般相場は春から夏にかけて暴落した後、秋口には一転して高騰。「朝どりとれたて便」の固定価格は、これと大きく乖離しました。そこで今年は、固定価格をやめて、生産費を基準にして、価格に一定の幅を持たせることにしました。 また、運送経費も大きな問題です。運賃は、農家と小売店が一コンテナにつき六十円ずつ負担していますが、今の「朝どりとれたて便」の取扱量では足りません。かといってトラックの台数を減らせば集配に時間がかかってしまいます。その赤字分は今のところ市場が負担しています。 「このとりくみは、一年や二年でうまくいくものではありません。長い目で見て、いずれは市内だけでなく近隣の市町村にも広げたい」と、丸果札幌青果の山根正雄部長。巨大な消費地である札幌の市民に浸透し、まわりの産地からも野菜を集めるようになれば、大きな事業になると見込んでいます。札幌市場はセリ比率が約六割で、全国的にも高い市場です。 酪農学園大学で食品流通学が専門の細川教授はこう言います。「市場は、産地と小売の間に入って、リスクを吸収し、物流を円滑にする機能をもっています。『地産地消』を進めるうえでも、市場をうまく利用していくことが大事です。札幌市のこのとりくみは、日本農業再生の一つのヒントを示しています」。 「さっぽろとれたてっこ・朝どりとれたて便」は、行政が本気になって輸入農産物や大手量販店の買いたたきから、地域農業を守ろうと始めたとりくみです。そしてそれは農家と小売、市場関係者がみずからの手で新たな流通を探求し作りあげることに他なりません。
(新聞「農民」2002.8.12付)
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[2002年8月]
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