「農民」記事データベース20020805-550-09

残留農薬検出相つぐ 中国産冷凍ホウレン草

食品衛生法〔改正〕輸入禁止へ

“水際検査”の復活こそ安全のかなめ

関連/ベビーフード業界に要請


 農薬汚染が広範囲におよんでいる農産物は、検査抜きで一括して輸入を禁止する――。冷凍ホウレン草をはじめ、中国産の野菜から安全基準値を上回る残留農薬の検出が相次いでいることで、国はやっと食品衛生法の改正に踏み切りました。厚労省は当面、冷凍ホウレン草を輸入禁止の対象として検討するとしています。国民世論の大きな成果ですが、輸入食品の安全実現には、避けられない課題が残っています。

 冷凍野菜の輸入は、今年三月まで無検査

 農民連食品分析センターの検査結果を受け、厚労省がホウレン草など十八品目の冷凍野菜を初めて検査対象にしたのが、今年の三月二十日から。それまでは、ブランチング(下ゆで)後に冷凍したこれらの野菜は加工食品として扱われ、検査の対象にさえなっていませんでした。何の検査もなくフリーパスで輸入されてきたのです。

 その中国産冷凍ホウレン草の輸入量は、十四年余で三十三万二千六百九十七トン(財務省貿易統計、八八年から二〇〇二年五月まで)。厚労省の今度の検査では、「直近の数字で、冷凍野菜十八品目の違反率は四・四%で、冷凍ホウレン草だけだと六・八%」(食品保健部長の国会答弁)だといいます。

 これを単純に掛けただけでも、二万二千六百トン以上の農薬まみれの冷凍ホウレン草を食べさせられてきたことになります。百グラムの冷凍ホウレン草を約六十三万人が毎日買って、一年間食べ続けるほどの量です。ゾッとする話です。

 国はこの責任をどうとるのでしょう。

 厚労省は食品衛生法施行令の一部を改正し、八月二十六日から冷凍を含む野菜全般やはちみつなどを、検査命令の対象とすることを決めました。それに農薬まみれの冷凍ホウレン草が輸入禁止になれば、国民はもう口にしないですむわけで、ともに大きな前進です。では、これで安心なのかというと、残念ながら答えは「ノー」です。「安全性が確認されないものは輸入しない」という“水際検査”の原則が投げ捨てられたままだからです。

 七年前の法改悪で水際検査規定削除

 国はいまから七年前の一九九五年、食品衛生法を改悪して、強力な輸入検査規定を削除してしまいました。同法14条2項は、「輸入食品等については、生産地の生産条件や法規制の違い等からみて違反食品に該当するおそれがあるものは、一律に検査を受け、その結果についての通知を受けた後でなければ、販売等をしてはならない」(厚生省生活衛生局監修『早わかり食品衛生法』)としていました。それを、「この規定は、現状においては過剰規制につながる」(同)として削除してしまったのです。

 国民の命と安全を守ることを最優先の課題にするのではなく、輸入規制の撤廃を柱とするWTO(世界貿易機関)協定を優先させた結果です。

 今度の改正案で検討されている「包括的輸入禁止」措置は、「検査の結果、相当数の違反が出た場合」とされているように、すでに農薬まみれの食品が市場に出回った後の、緊急措置にすぎません。ここでいう「相当数」について、厚労省は国会答弁で、「おおむね五%以上の違反が出た場合を想定している」といいます。

 輸入時の検査は、通常は輸入届出の五%モニタリング検査です。これだと二十件の届出のうち検査するのは一件で、十九件は素通りです。検査した一件も、検査結果が出たときにはすでに市場に流れ、消費者の口に入っています。これでは有効な予防措置とならないことは明らかでしょう。

 食の安全を守るためには、人員増を含め検査体制を充実させて、「安全を確認されないものは輸入しない」という、国が七年前に削除した水際での予防措置を復活させることが、要となっています。

 また、九三年に八八%だった野菜の自給率は年々下がり続け、二〇〇〇年には八二%となっています。輸入を野放しにするのでは、検査体制も追いつかなくなります。

 農民連の告発と大きな世論が動かした「食の安心・安全」を実現するためには、検査体制の充実と自給率の向上こそが求められているのです。


厚生省 中国産ホウレン草の使用調査

ベビーフード業界に要請

 厚労省は七月二十三日、ベビーフード製品について、中国産ホウレン草の使用実態を調査するよう、四項目にわたって日本ベビーフード協議会に要請しました。中国産冷凍ホウレン草から乳幼児ほど健康被害が出やすい農薬・クロルピリホスの検出が相次いでいることをうけたものです。

 このなかで、中国産ホウレン草を使っている場合、農薬の残留検査をしたかどうか、していないものについては、検査したうえで結果を連絡するよう求めています。

 農民連食品分析センターは昨年五月、市販されているベビーフード十三品目を検査し、「和光堂ベビーフード 味覚応援ほうれん草とグリーンピース」など三品目から農薬を検出しています。

 また、これを重視した新日本婦人の会の要請で厚労省も検査を実施、原料の冷凍ホウレン草から農薬を検出し、業者に検査体制の強化などを指示しています。

(新聞「農民」2002.8.5付)
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2002年8月

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