「農民」記事データベース20010730-503-03

小泉“構造改革”農政版

痛みに耐えて明日はあるか

従来型「新政策」の焼き直し

関連/改革競い合いの農業版

 「構造改革」の農政版は三百十二万戸の農家を「意欲と能力のある経営体」四十万と、“ボランティア・生きがい”農家二百七十万に分別し、二百七十万農家を農政の対象からはずすこと。これ自体は従来の「構造政策」の焼き直し、「新政策」の“小泉版”であり、なにも目新しいものではありません。しかし、WTO協定実施六年間の農村と農業の実態――米価をはじめあらゆる農畜産物価格の大暴落、輸入の激増――と、異常な不景気・リストラのもとでは、「骨太」どころか“骨折”による“激痛”が走り、“死にいたる病”になりかねません。武部農水大臣のヒザ元、北海道で取材しました。


 兼業農家の相次ぐ自殺

 北海道・空知や旭川では“本業”の土木作業員と農家の仕事の奪い合い状態が生まれ、仕事があるのは週に二〜三日。「安定兼業」というよりは、米価や野菜価格の暴落から経営を守るため、やむなく兼業に出ているのが実態ですが、「改革」方針はこういう苦労に冷や水をかけるもの。

 さらに「不良債権処理」が強引に進められれば、中小企業の倒産に拍車がかかり、新たに百万人以上の失業者を生み出す――。「兼業農家は“お前は農地があり、食えるから”と解雇の対象になりやすい」(福島県農民連の根本敬事務局長)のが実態で、真っ先にリストラ対象になっているのは兼業農家です。

 今年に入って、新潟県で五ヘクタール規模の兼業農家の自殺が相次いでいるのは、その悲しい証明です。

 四十一歳で農業に終止符

 大規模・専業層はどうか――。この春、北海道の穀倉地帯、空知で十五年間営んできた農業に終止符を打ったAさん(四十一歳)は言います。

 「米価暴落によって米八ヘクタールでは赤字で、メロンや白菜、かぼちゃで補ってきた。規模拡大で乗り切ろうと、水田を四ヘクタール購入した。しかし女房とばあちゃんが腰痛で、昨年は“出面さん”を雇ってなんとか乗り切ったが、メロンや白菜が大暴落で、これ以上無理すると、『不良債権農家』になってしまい、保証人(親戚)にも迷惑がかかる。自分ももともと腰痛持ち。見切りをつけざるをえなかった」

 米価の暴落がなければ、メロンや「メチャ安で数えるほどしか出荷できなかった」白菜の値段が何とかなっていれば、「自分の体を切り売りする」ような無理をすることもなく、農業を続けていたはず。「規模拡大、複合経営でやってきて、このありさまだ!」――Aさんの現実はとうてい耐え切れない「構造改革」の「痛み」そのものです。

 不良債権処理で何戸残るか

 「主業農家」数四万五千戸、農家全体に占める割合が六五%の北海道では、ほとんどが「四十万経営体」入りが確実と思われがち。ところが「認定農家」はわずか一万五千戸で、政府の方針では、主業農家の三分の二は門前払いです。認定農家がこんなに少ないのは米価暴落などで所得目標が達成できないため。

 大規模層ほど価格暴落や価格保障廃止による打撃は大きく、しかも借金も多い――農協(JAバンク)の「不良債権処理」が本格化すれば、「離農勧告」が続出することは必至です。水田の地価は十アール百万円から最近は三十万円前後に下がっています。農家が放漫経営をしたわけでもないのに担保力が下がり、「不良債権」がどんどんふくれあがる――ここに「不良債権処理」が強行されたら、北海道で生き残れる農家はいったい何戸いるのでしょうか。

 “改革”そして“破滅”

 さらに耐えがたい「痛み」の後にある「明るい明日」の中身も大問題。

 政府はいま、価格保障をローラーで地ならしをするように全廃した後の対策として「農業経営政策」を検討しています。「各論先送り」方針の一環なのか、新対策の中身は鮮明ではありませんが、基本は農家と政府が積み立てた基金を使って、暴落や災害による減収を補てんするというカナダ型「収入保険制度」です。

 しかし、価格保障全廃のねらいは、一俵の生産コスト八百〜千円という中国産米を目標価格に買いたたきを進める大資本の横暴を野放しにすること。米や野菜の暴落を放置したまま作られる「保険制度」がすぐにパンクすることは、稲作経営安定対策の破綻が明白に証明しています。それでも保険制度を維持するためには、農家の負担が限りなくふくらむことになります。

 「収入保険制度」の本家カナダでも破綻は明らかなようで、保険加入者の八三%が「引退のための貯蓄」と考え、減収補てん効果があるとは思わない人が四一%にのぼっています。

 価格保障の廃止と不良債権処理という「痛み」に耐えた後に待っている「経営政策」はこの程度のもの。

 これでは「改革か、さもなければ破滅か」どころか、「改革、そして破滅」の道です。第一段階で二百八十万戸を切って捨て、第二段階で残る四十万戸を破滅に追い込む――これが小泉「改革」の正体です。


改革競い合いの農業版

 価格保障の維持・充実を主張しているのは日本共産党だけ、自民党から民主党まで、価格保障廃止を主張――全国農政協が実施した政党アンケートで、驚くべき実態が明らかになりました(日本農業新聞七月十一日)。

 自・公・保 「価格保障」の“か”の字もなく、「新たな農業経営所得安定対策の確立」(自民)、「新たに経営を単位とする直接所得補償制度を導入」(公明)というだけ。

 民主党 「以前より農産物価格支持政策から所得安定政策への転換をはかる」ことを要求してきたと述べ、価格保障廃止の“本家“であることを公言。

 日本共産党 「農業予算の主役を価格・所得保障に移し、農産物価格に生産コストを償い他産業なみの労働報酬を保障する仕組みを実現する」と明快。

 社民党 「再生産を可能とする経営・所得安定対策を確立」

 自由党 「市場原理を活かしつつ、農家経営の安定を図るために必要な経済的措置を講ずる」

(新聞「農民」2001.7.30付)
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2001年7月

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