信州のおばあちゃんと“茶のみ”吉田文子
笹巻きだんご信仰の山として有名な木曽御嶽山の登山口、王滝村に住む楠村菊江おばあちゃんは七十五歳。現役の豆腐屋さんです。「春はよ、だんご作らなきゃ、きりがつかんでよ」というほどの年中行事、「笹巻き」だんご作りにおじゃましてきました。昔から五月(旧暦なので実際には六月になる)のお節句に必ず作るもので、水車を利用して、米をついて粉にしたもので作ります。家の裏を流れる川沿いには昔はどの家でも水車があったのですが、今では王滝村でも菊江おばあちゃんの家一軒のみになってしまいました。そのため、毎年五月三十日から六月十日まで、村の人が交代で使うのが習慣になったのです。
笹の葉を八百枚私がおじゃました六月八日は、屋高千子(やだかちね)おばあちゃん(78)の番でした。千子おばあちゃんは、「今日は、おはたき(米を叩くようにつくため、こう呼ばれている。この米で作った笹巻きだんごのこともおはたきと呼ぶ)二回目。一回目は全部、親戚に送る分さね。今日は自分のと子どもの分」。一回のおはたきは米八升まで。家により三升だったり、五升だったり、量はまちまちです。笹巻きだんご作りは四日がかり。まず一日目は山へ笹取り。二日目は笹を洗い、米を水に入れてふやかしておき、夜寝る時にザルにあげ、適度に乾かしておきます。一升で三十〜四十個作れ、一個につき笹の葉三枚が必要なので、百枚以上。千子おばあちゃんは八升ですから、八百枚以上の笹を一枚一枚洗うのはたいへんな作業です。三日目は、「おはたき」。八升の米なら二時間近くかかります。そして、水で練って、笹で包んで三十分くらい蒸します。四日目は、子どもや親戚に送る作業。この季節にとれる野菜なども入れて送るので、最低半日はかかるのだそうです。 千子おばあちゃんは、うるち米七にもち米三の割合、菊江おばあちゃんは六対四。好みにより、ゆずれない配合があります。笹に入れ、いぐさでくるくると巻いて、形を作ります。
水車ならではの味「年にいっぺんしかつくらないから、やりかたわすれちまうなあ」「おや、おめさんはそう巻くんかい?わしゃ、こうさ」「あれ、そうだったっけなあ」近所の仲良し、西村登志子おばあちゃんも来て、にぎやかです。人により、微妙に大きさ、巻き方、形の整え方が違います。村のおばあちゃん、ひとりひとりの味があるのです。 うみた(蒸しあがった)笹もちで、さっそくお茶飲み。市販の均一な細かい米粉と違い、粒がやや大きいもの、小さいものが混ざりあっていて、もっちりと歯ごたえがあり、初めての食感です。「やはり、笹巻きは、水車でないと」とこだわるのがわかります。笹の香りがよく、なんともいえず、あったかーい、おいしさでした。 今年も「王滝村からの春の贈り物」を、きっと皆が心待ちにしていることでしょう。
(新聞「農民」2001.7.9付)
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[2001年7月]
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