輸入農産物急増・価格暴落…いまこそセーフガード発動を“農産物輸入の急増にストップを”――農協も署名運動に立ち上がりはじめました。これは、身勝手な願いでも、無茶な要求でもありません。“各国が自国の農業や工業を守るために必要な場合は、緊急に輸入を制限したり、関税を引き上げることができる”――WTO(世界貿易機関)が、こう取り決めているからです。
WTO(世界貿易機関)は、例外なき自由化をゴリ押しすることを基本原則にした協定ですが、その見返りに、輸入の急増から各国が自国の産業を守る権利を認めました。文字通りの「セーフガード」(安全装置)です。
セーフガード発動を“永遠の課題”にする日本政府ところが日本政府は、あれこれの理由をつけて、頑としてセーフガード発動を拒否し続けています。農水省によれば、セーフガード発動のためには(1)まず農水省が「十分な証拠」を集め、(2)大蔵・通産省に「調査開始についての通知・要請」を行い、(3)三省で合意できれば「調査開始」を決定してWTOに通報し、(4)そのうえで正式の「調査」を行い、(5)「国民経済上緊急の必要性」があると認められる場合に発動する――という手続きが必要だとされています。 しかしWTO協定は、こんな大げさなことを要求しているわけではなく、輸入の増加が「国内産業に重大な損害を与え、または与えるおそれがある」場合にセーフガードを発動できると言っているだけです。「国内産業」とは「業界」という程度の意味で、「国民経済」的な損害がなければセーフガードを発動できないなどというのは、日本政府が勝手に作り上げた虚構にすぎません。 ニンニク・ショウガの例に見られるように、日本政府は、現実に損害が発生しても「調査中」を理由に、ズルズルと引き延ばしてきましたが、こういう“自己規制”が原因です。
気軽に発動するアメリカ一方、外国はどうか――。WTO協定成立以降、アメリカや韓国がセーフガードを発動しています(それぞれ二品目)。またアメリカは“ダメで元々”とばかりに通 報を行って、輸出国を牽制しています。いずれも「国民経済」的な損害などという大げさなものではなく、関係業界の要請にもとづいて発動しているのが特徴で、日本とは大違いです。
包括的な対象指定もまた韓国は、チーズやバターという個別品目ではなく「乳製品」というくくりでセーフガードを発動し、チリも「小麦、砂糖、食用植物油」を一品目として発動しています。これは、日本も根菜類や葉菜類、かんきつ、りんごなどの大ぐくりのセーフガード発動が可能なことを意味します。
「報復」措置はWTO違反“そうは言っても、経済大国日本がセーフガードを発動すれば、報復を受けるおそれがある”――こんな宣伝も行われています。これは真っ赤なウソです。WTO協定では、セーフガードを発動する場合、(1)関係国と事前協議を行うこと、(2)関係国と合意できなかった場合、相手国は「対抗措置」(報復措置)をとることができると定めています(セーフガード協定第八条1〜2)。しかし、大事なのは、この後です。 「セーフガードが輸入の絶対量の増加の結果としてとられたものである場合には、(報復措置は)最初の三年間については行使されてはならない」(第八条3) いま必要なのは「輸入の絶対量の増加」に対するセーフガードの発動であり、発動期間は原則四年です。このうち最初の三年間は報復措置をとってはならないということは、事実上、報復禁止を意味します。それでも報復措置をとる国があるとすれば、その国自体がWTO協定違反――これがWTOのとりきめです。
WTO協定にしたがっていまこそセーフガードの発動を野菜や果物、米の暴落は輸人の急増によって起きたものです。その背景には、日本の大商社や大手スーパーの「開発輸入」があります。このように輸入によって起きている被害は、輸入を制限することによって解決する以外に手はありません。WTO協定上の義務でもないのに「義務」だと言い張って外米輸入をズルズルと続け、逆に「権利」であるセーフガードはあれこれと理由をつけて“自粛”する国内でも世界でも、日本政府の逆立ちぶりは異常です。こんな逆立ちをやめさせ、WTO協定通りにセーフガードを発動させること、そのために農業という「業界」をあげての運動にたちあがろうではありませんか。
セーフガードには、一般セーフガードと特別セーフガードの二種類あり、特別セーフガードはWTO農業合意によって自由化(関税化)した品目だけを対象とし、一般セーフガードは、これ以外のすべての農産物・鉱工業製品が対象です。
いま焦点になっているのは一般セーフガードで、(1)関税引き上げだけでなく、輸入数量制限を実施できる、(2)発動期間は最長八年間(原則四年)です。野菜や果物、キノコなどの輸入急増に対しては、大きな効果を発揮します。
(新聞「農民」2000.9.18付)
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[2000年9月]
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