「農民」記事データベース20000911-462-03

WTO抜本改定は――世界の流れ

アジアのNGOがFAOに「勧告」

 国連食糧農業機関(FAO)の第二十五回アジア・太平洋地域総会(八月二十八日〜九月一日、横浜)と並行して開かれた「アジア・太平洋地域FAO・NGO協議会」(二十八〜二十九日)は、WTO体制を根本的に批判した報告書をまとめました。この協議会には、三十カ国から二百五十人が参加。農民連からは真嶋・石黒両事務局次長、食健連からは坂口事務局長が出席しました。


相次ぐWTOに対する批判

 協議会では、アジア各国の農業を弱体化させ、農民経営に困難をもたらしているWTOと多国籍アグリビジネスに対する強い批判が相次ぎました。

 *フィリピン「食料生産システムは、WTOの命令によって、国民の食糧需要を満たすという目標が後回しにされている。これが貧困と食料不安の原因だ」「無差別の自由化政策は、強大な多国籍アグリビジネスの進出と支配を認め、小規模農家を崩壊させている」(農地改革・農村開発センター、アントニオ・クィソン会長)

 *バングラデシュ「WTOは、途上国に住む大多数の貧しい人々の悲惨と苦難をさらに増大させる」(開発組織協議会、シャムスル・ヒュダ常務)

 *韓国「(多国籍企業の)地球規模の集中化と、少数の穀物輸出国による独占構造が結びついた場合、食料輸人国の食料安全保障は、いっそう深刻な危険にさらされる。いまや独占的力を持った多国籍企業による支配から脱することが、食料輸入国にとって新たな課題だ」(韓国農協中央会、シル・クァン・リー部長)

 「NGO代表」とはいっても、政府高官や国会議員、農協幹部が多数を占めており、シアトルやバンコクのような草の根のNGO集会とは、かなり趣きが違います。それにもかかわらず、こういう手厳しい批判が続出する――ここには、WTO協定は根本的に改定できるし、しなければならないという世界の流れが根強いことを示しています。

 またスリランカの代表は「米が主食だったが、小麦が主食の座を奪いつつある。米は一ドルで二キロしか買えないが、輸入小麦は四キロ買えるからだ」と述べていました。アメリカの食糧戦略の影響でしょう。

 いま、私たちが直面している輸入急増と価格暴落に関連して「自分たちが食べることのない作物を生産し、市場がこういう作物を購入しなかった場合は極貧に苦しむようになった」(フィリピン)という告発も注目に値します。

*  *  *

 FAOは昨年九月に公表した報告書で、NGO(非政府組織)とCSO(市民社会組織)を「情報の共有と政策対話」を中心としたパートナーとして位置づけ、NGO協議会の報告書は、FAOに対する「勧告」という意味を持ちます。これをどう生かすのか、FAOと各国政府の対応が問われます。

「報告書」の要旨
 *アジア太平洋地域の慢性的栄養不足人口は五億二千万人で、世界の三分の二を占める。したがって、アジア太平洋では、食料安全保障を達成することに特段の努力を払う必要がある。

 *農業生産は、先進国に本拠を置く少数の多国籍企業に支配されつつある。

 *貿易を律する政策は、以下の原則をもとに新たな方向づけが必要である。

 (1)農産物貿易の自由化そのものが目的と見なされるべきではない。国内の食料自給率を向上させることが各国の第一義的な目標にされなければならない。

 (2)農業の多面的機能は、貧困の撲滅や食料安全保障の基礎となるべきだ。

 (3)国内向けに十分な食料を生産することを可能にする政策がとられるべきである。貿易は、力ずくで国内生産に取って代わるべきものではなく、補完するものであるべきだ。

(新聞「農民」2000.9.11付)
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2000年9月

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