全国から注目される奥多摩方式猿害 こうして追い払うメス猿に発信機→追跡→住民通報→→猟友会パトロール→威嚇…農山村でのサルやシカ、イノシシなどによる農作物被害が多発し、収穫まぢかの作物が見事にやられて、そうでなくとも価格低迷のなかで生産者の耕作意欲を失わせています。そんななか、研究者の協力を得ながら住民と役場との連携で被害を減らしている自治体があります。平成九年度からはじまった「奥多摩方式」とよばれる「サルの動向把握―追跡―追い払い―先回り」の繰り返しというシステムを作った東京都奥多摩町です。
住民、研究者、行政が連携して実行「昔は山にも畑にもいつも人がいて、動物との間に緊張があって棲み分けができていました。それが雑木から針葉樹林にしたうえに林業の衰退で人が撤退し、里も高齢化と過疎化で境界線が下がってしまった」。奥多摩町観光産業課・農林水産係の加藤係長と天沼主任はこういいます。 町は、面積の九四%が林野で耕地はわずか〇・三%の典型的な山村です。農業粗生産額は、六八・五%を占めるワサビをトップに未成熟トウモロコシ、馬鈴薯、枝豆、甘藷など。これが被害を受けるのです。 そんなとき、村の猟友会会長が、サルの行動を研究するためにメスザルに発信機をつけて観察してきた白井啓先生((株)野生動物保護管理事務所)に、その方法をサルの駆除に応用できないかと相談したことから住民、研究者、行政との話し合いがはじまりました。 まず、群れのメスザルを捕獲、発信機をつけて放すと二〜三日で群れにもどるので、その行動の受信と、各集落の住民の協力も得て、現れたら役場に通報する体制を作り上げることで、群れの行動パターンが把握できるようになり、一群二〇〜三〇頭の七群、全体で約二百頭と推定、作物を荒らすギャングは四群と分かり、いまでは、次にどこに現れるか行動パターンが把握できるようになりました。
サルだけでなく獣害全体が半減奥多摩町・あきるの市・八王子市・桧原村やJAが作った「すぐにできる防止対策集―被害を防ぐ手引き」では、各動物ごとの防止対策を掲載しています。(1)集団行動するサルはできるだけ駆除せずに、見張り、追跡、先回り、追い払いを「繰り返す」ことで、学習して里に出ないように行動をコントロールする(2)防護網や柵での畑の囲い込み、生ゴミや残飯を放置したり、エサを与えない(3)クリ・カキなど果実やシイタケなどの取り残しをなくす(4)山に彼らの適度な生息場所の確保(5)犬を畑につなぐなど、動物の習性をつかんだ短期・長期の作戦と複数の方法を組み合わせ執拗な対処を住民、行政、専門家の役割分担を求めています。 奥多摩町では「シカなどがあの辛い葉っぱも根も食べるんですよ」という特産物のワサビの被害は、平成九年度の被害総額の一千七百三十万円のうち一千五百六十万円にも。それが翌十年度には、被害総額八百四十九万円、うちワサビが六百九十九万円になるなど、サルだけでなく獣害全体の被害は半減しました。
国は無策、石原都政は予算を削減新聞「農民」読者で日本共産党奥多摩町議の島崎利雄さんの案内で訪問した、境地区の岡部和雄さん(七十歳)の三十度以上はあろうかという急傾斜地にある防護用ネットでかこまれた自家用畑は、植えたジャガイモの種がやられ、他の人の畑にも、どこから入ったのかイノシシの足跡や、入ろうとしてネットの下の土を鼻でほじくった後や、シカの糞もあります。町は都にたいし、森林整備・獣害対策への援助の増額を要望してきましたが、都は新年度予算でわずかな補助金をゼロにしてしまいました。 加藤係長は、防護網設置予算の復活を求めるとともに、「ここは観光地です。『野生動物にも優しい自然豊かな町づくり』のためにも、専門担当官を置いて森林被害や作物被害を調査し、対策をとってほしい。いまの被害額にはスギ・ヒノキなどの被害は含まれていないからもっと被害額は大きくなるはず」と都や国にたいし、森林整備と高齢化がすすんで獣害対策の継続が困難になりつつある自治体への適切な援助をと、真剣に語りました。
(冨沢/新聞「農民」2000.5.1付)
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[2000年5月]
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