「農民」記事データベース20000501-448-03

アメリカに見る

世界中の農民を苦しめる大企業の買いたたきと価格保障の廃止

関連/農民の取り分わずか5〜6%


 「農産物価格の暴落による経済危機で、アメリカの農村からは病院や学校が姿を消している。子どもたちはインターネットで勉強しているが、これは教育とはいえない」「アメリカ経済全体が好況を謳歌しているのに、農村だけは“第三世界”といわれている。わが家は六代続いた農家だが、もうゲームセットだ」――三月下旬に首都ワシントンで開かれた「アメリカ農村を救う大集会」では、アメリカの農民たちの悲鳴が相次ぎました。

かつてない価格低下と赤字経営

 一九五〇年代以来といわれる農産物価格の低下と、一九三〇年代の大恐慌以来といわれる農家の赤字経営――いま、アメリカの家族農業を襲っている危機の原因は、穀物メジャー・多国籍企業による非情な買いたたきと、九六年農業法による価格保障(不足払い制度)の廃止です。

 NFFC(全米家族農業者連合)の若い協力者、ジム・ホイヤー氏(「経済的正義のためのキャンペーン」スタッフ)によると――。

 (1)アジアの経済危機によってアメリカ産農産物に対する需要が減退したことを口実に、カーギルなど多国籍企業は、トウモロコシを農家から生産コストの四割で買いたたく一方、消費者には買付価格の三倍で売っている。

 (2)そのうえ九六年農業法で「不足払い制度」が廃止されたため、農家は買いたたきの影響をモロに受けることになった。「ローンレート」制度が残っているが、保証水準が低すぎて、農家の救済には役立たない。

大幅コスト割れ価格が「国際価格」とは

 トウモロコシをはじめ穀物価格は九七年後半以来下がり続けたまま。大企業の買いたたきと価格保障廃止の二重の打撃は深刻です。内容の違いはあれ、日本で起きているのも同じ事態。

 「アメリカの農民に大幅なコスト割れを押しつけ、それを『国際価格』とは、とんでもない。農産物価格は安すぎる。農産物価格を引き上げることは、世界の食糧安全保障と経済的自立のために必要なことだ」(農業・貿易政策研究所のニール・リッチー氏=国際シンポジウムに出席したマーク・リッチー氏の実弟)

 実際、日本ではインチキ「国際価格」との競争が迫られ、発展途上国にも「安い」アメリカ産穀物の輸入が押しつけられて、WTO実施五年間に世界中の農業はガタガタになっています。

 しかし、アメリカの農民組織はなかなか意気軒昂です。

 「多国籍企業の横暴と、農民に顔を向けない政策、そしてこれを世界中に広げるWTO――これがアメリカの農民を殺し、日本の農民をも殺している。世界の農民がたたかうべき相手は明確だ」(ビル・クリスティソンNFFC委員長)

 「価格保障を復活しろという要求が実現可能なのかという声もあるが、たたかうしかない。たたかわなければ生き残れないからだ」(名も知らぬアメリカ農民)

 NFFCとは、それぞれの国でたたかうことを再確認しましたが、総選挙は目前。アメリカに負けず劣らず異常な国、日本を変えることは、日本の農民の生き残りだけでなく、世界にも大きな役割をはたすことはまちがいありません。


 (注)アメリカの価格保障は「不足払い」と「ローンレート」の二種類の制度の組み合わせであった。

 「不足払い」は、市場価格が生産費を基準に決められる目標価格(95年は二・七五ドル)を下回った場合に、その差額を政府が補てんする制度。

 「ローンレート」は、市場価格が融資単価(99年は一・八二ドル)を下回った場合、農家は農産物を“質草”に農務省から金を借り、価格が回復しない場合、農産物を“質流れ”にする。これによって、融資単価が最低限の保障価格の役割をはたす。

 しかし、九六年農業法で不足払い制度が廃止されたため、政府が負担していた「赤字」分が、ほぼそっくり農家負担になり、アメリカの農家は赤字経営になった。


農民の取り分わずか5〜6%

すすむ多国籍企業化

 ワシントン集会の「農民昼食会」のメニューは、ビーフハンバーガーと豆料理、ポテトとキャベツのサラダ、牛乳、コーヒー、クッキー。日本人には少し多すぎるランチでしたが、驚き、感心したのは、このランチの農民の取り分がわずか三十九セント(四十円)であることをアピールするチラシが準備されていたこと。レストランで食べれば七〜八百円でしょうから、取り分はわずか五〜六%。

 チラシにはシリアルの取り分が一・二%、ポテトチップが一・六%……と紹介されており、一番高いのが生卵の四五・二%でした。

 NFFCと協力関係にあるカナダ・ナショナル・ファーマーズ・ユニオンは二月に議会に提出した意見申立で「収入危機の本当の原因」として、こういう「食料生産チェーンの支配」をあげ、カナダ全体の農場収入が二百九十億ドルなのに、カーギル社一社で七百五十億ドルもの収入をあげていることを指摘しています。

(真嶋良孝)

(新聞「農民」2000.5.1付)
ライン

2000年5月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2000, 農民運動全国連合会