「農民」記事データベース20000501-448-01

セーフガード「緊急輸入制限」発動を

シイタケ生産者が運動

福島 輸入激増で価格暴落

関連/日本、一度も発動せず

 「暴落の原因が輸入なのは明らかだ」「輸入やめてくれと声あげよう」――いま、価格暴落に苦しむシイタケ生産者の間で、こんな声が高まっています。去年のシイタケ輸入量は、生鮮、乾燥あわせて約四万トン、九二年の六倍に激増し、卸売価格は三割も落ち込んでいます。この苦境のなかで「福島県きのこ生産組合連合会」は、「緊急輸入制限(セーフガード)」を発動するよう、初めての要請運動に乗り出しました。


悲鳴あげる産地〈福島リポート〉

 雑木林のなだらかな丘がどこまでも続く福島県阿武隈山地。駒木根茂さん(42)は、この豊かな自然に抱かれた山の里、平田村で、五万本の原木シイタケを栽培しています。「金の苦労さえなければ、シイタケは通年で毎日出荷できる魅力的な作物なんだけど」。「福島県きのこ生産組合連合会」の会長で、福島県南農民組合員でもある駒木根さんは、やはり低価格に悩む葉タバコ栽培に見切りをつけて、二十年ほど前から原木シイタケを作ってきました。

 冬の農閑期、駒木根さんは近くの農家の応援を得て、自分の手で、周囲の雑木林からナラやクヌギなど、五万本のほだ木を伐り出してきます。かつて薪炭の産地だった阿武隈山地には、いまも雑木林が多く残っていますが、雑木林は二十年から二十五年に一度、更新、つまり伐採しないと保全できません。年ごとに移動しながら、四ヘクタールに生えている立木すべてを買い取り、伐りだす原木シイタケ栽培は、雑木林の保林にも、ひいては水源地の保全にも大切な役割を果たしています。

 そして、一月から三月、伐り出したほだ木に早生、中生、晩生と数種類のシイタケ菌を植菌し、一本のほだ木から二年かけて六回、シイタケを収穫します。

中山間地の大切な雇用の場なのに

 駒木根さんの栽培方法は、原木シイタケといっても、温度管理のいき届いた大型ハウスに、ほだ木をいわば串刺しにして、吊るして管理するという、いたって近代的な方法ですが、五万本のほだ木栽培ともなると、駒木根さん夫婦だけではとうてい追いつきません。ほだ木の伐り出し、植菌、収穫と、常時二〜三人、多いときで六〜七人、年間のべ千二百人がここで働いています。働きに来るのはみな、近くの農家のお母ちゃんや出稼ぎにいくのをやめたお父ちゃんたち。植菌作業を説明しながら、駒木根さんは言います。「この作業も専用の機械があるんだけど、みんなでやれば、時間も経費も同じようなものだから」。中山間地の農家の働く大切な雇用の場でもあります。

輸入物に押され次々と廃業

 しかし今、このシイタケ栽培が低価格の輸入に押され、廃業が相次いでいます。スーパーでは高級きのこのシイタケも、生産者価格はいま百円にも満たない低価格です。「再生産していくには、一パック(百グラム)で、百五円はかかる。今は完璧な赤字相場」と駒木根さん。駒木根さんは東京・築地市場の場外卸との契約栽培でなんとか続けていますが、「普通に市場出荷して八十二円では、中国産と競争するために出しているようなもの。借金でやめるにやめられない生産者も多いと思います」と言います。

 今年の「福島県きのこ生産組合連合会」の総会も、「発足以来二十一回目でしたけど、生産者だけではもうどうにもならないと、かつてない盛り上がりでしたよ」と駒木根さん。「僕も総会で農民連が言っているセーフガードの話をしましたし、経営が苦しいのは皆の共通した思いですから、少しでも良くなることならやるべきだと、異論なく一致しました。いま六月の県議会にむけて案文を練っているところです」。

(満川)


世界各国が次々断行のなか

日本、一度も発動せず

 輸入の激増を抑えるには、国際的に認められたいい方法があります。それがWTO協定のなかの「セーフガード(緊急輸入制限)」という制度です。

 WTOセーフガード協定は、輸入の増加が「国内生産に重大な損害を与え、または与えるおそれのある場合」は、「特定の産品の輸入に対する緊急措置」をとることができるというもの。つまり政府が自国の農産物を守るために必要だと判断し、発動すれば、堂々と関税を引き上げたり、輸入数量を制限することができるのです。しかもあらゆる品目が対象になり、輸入を制限された相手国も三年間は対抗措置をとってはならないという強力な内容です。

 げんに、WTO協定以前のガット時代にはアメリカやEC、カナダなどは百四十七回も発動し、WTO協定以後もアメリカ、韓国、チリなど世界の各国がどしどしセーフガードを発動しています(表)。とくに「例外なき自由化」を世界に押しつけているアメリカは、関係国の猛烈な抗議をはねのけて発動。

 しかし、日本の自民党政府はいまだに一度もセーフガードを発動したことがありません。政府の判断ひとつで輸入を制限できる制度がありながら、農民の苦しみに背を向け、輸入促進の農政を押し進めています。

世界各国はこんなにセーフガードを発動してるのに
国 名
品  目
発 動 期 間
アメリカ
小麦グルテン
1998/6/1〜2001/6/1
子羊肉
1999/7/22〜2002/7/22
韓国
乳製品
1997/3/7〜2001/3/6
ニンニク
1999/11/13から暫定措置発動
チリ
小麦、小麦粉、砂糖、食用植物油
1999/11/19〜2001/1/19
チェコ
甘しゃ糖、てん菜など
1999/3/12〜2003/3/11
スロバキア
豚肉
1999/5/21〜1999/12/6
ラトビア
豚肉
1999/6/1〜2001/12/17

 国際的な権利を全然行使せず、義務でもないミニマム・アクセス米を「義務」だと言いはって輸入する――こんな逆立ち政治を変え、セーフガード発動のため、力を合わせるときです。

(満川/新聞「農民」2000.5.1付)
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2000年5月

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